イラスト原稿料の訴訟の経験を通して
大金玲子(イラストレーター)
私は昨年の10月にとある会社と契約し、絵本の挿絵イラストの仕事を始めた
のですが、同社の一方的な都合により途中で解除を言い渡され、それまでの仕
事に対する報酬を再三請求したにもかかわらず、「イラスト試作料」という名
目で極めて少額が振り込まれたのみでした。
電話で問い合わせをしても「枚数の問題ではない」「業界の先例を挙げて下
さい」と言い逃れをされるばかりで、内容証明郵便を利用した文書による問い
合わせにも返事は全くありませんでした。
私はこの仕事が最初のイラストの仕事だったのですが、潰れてしまったので
まだプロとは言えず、知り合いにプロのイラストレーターの方もいらっしゃら
なかったため、困ってしまいました。
ですが、泣き寝入りはしたくありませんでした。仮にイラストの業界で本当
にこういう先例があるのだとしても、それでは働く者としての常識的な権利が
守られないと思ったからです。
そんな経緯で、まず司法書士会の無料相談を利用し、「これだけの証拠があ れば敗訴はしないのでは」というアドヴァイスを受けた上で、少額訴訟の提起 にふみきりました。
訴訟には、少なくとも印紙代(額に応じて500〜3,000円)および切手代
(5,700円くらい)がかかります。このほか、訴状作成にあたり、司法書士など
専門家に作成を依頼すると10,000〜30,000円、自分で作成して相談のみだと一
回につき3,000〜5,000円くらいかかります(愛知県の相場)。
私は自分で訴状や添付書類を作成することにし、近所の司法書士の方に2回ほ
ど相談しました。ただし、問題がやや複雑だったこともあり、書類作成等の準
備のために合計でまる13日分かかってしまいました。
裁判の手続きの日程は、1月末に簡易裁判所に訴状を提出→2月末に被告からの 答弁書を受け取り→3月初めに裁判当日、という具合でした。答弁書を受け取って からはそれに対する反論を用意するためにまた奔走しました(その過程で鋤柄さ んのホームページと出会い、相談をさせていただけるという幸運に恵まれました)。
結果は、和解金の支払いという条件で和解成立となりました。当日、被告は
「イラストが思うようなレベルに達しなかった」という主張を繰り返しましたが、
裁判官からは「一般常識の順番では、試作料を払って試作してから確認し、仕
事をスタートさせる筈である。作った分については(会社が)負担しなくては
ならない。」という内容の指摘がありました。「イラスト業界」という事が一
種のブラックボックスになり、一般の労働とは異なる基準が適用されるのでは、
と心配しましたが、法廷では常識的な判断が行われるのだと思い、ほっとしま
した。
なお、今回のケースでは、幸いな事に契約の書面が証拠として残っていたの
で裁判もスムーズにいきましたが、口約束だけだと立証が困難だったと思いま
す。書面の有無は、とても重要な要素だと感じました。
今回の経験を通じて思った事は、不誠実なクライアントと仕事をして不利益
を被りそうになっても、必ずしも泣き寝入りする必要はない、という事です。
勿論、たとえ少額訴訟といえどもそれなりのコストはかかるので、コスト割
れになってしまっては元も子もありませんし(私は何とかコスト割れせずに済
みました)、時間や労力もばかになりません。ただ、黙って不利益を受けてし
まうと、クライアント側はこの先も同じ事を続けるだろうし、ひいてはそれが
業界の慣行になってしまうかもしれません。
契約の時点でトラブルを未然に防ぐような配慮ができれば理想的ですが、不
幸にしてトラブルになってしまった場合でも、様々な選択肢があり得るのだと
思います。
ここまでお付き合い下さってありがとうございます。ほんの個人的な一例で したが、少しでも何かの参考になれば幸いです。
<プロフィール>
【大金玲子】
イラストレーター修行中。1999年4月に首都圏に転居。
現在はホームページ「TOPOTOPOT」にて作品を発表。
ホームページ:http://www.ne.jp/asahi/ogane/reiko/
E-mail アドレス:reiko@o.email.ne.jp